介護職員処遇改善加算とは?仕組みや対象者など簡単に分かりやすく解説
少子高齢化が進むなかで、介護職は深刻な人手不足になることが懸念されています。そこには根強い「給料が安い」問題が根本の原因であると、介護の最前線で働く人たちからの声もあるほど、介護職はお給料が見合わないと言われているのです。そこで、より良い介護職員の職場環境を提供し離職率を抑えるため「介護職員処遇改善加算」が設定されました。これにより事業所は、条件を満たせば国からの補助がもらえるようになったのです。
目次
介護職員処遇改善加算とは?
厚生労働省の説明では、介護職員処遇改善加算とは、「全5区分からなる、区分ごとに設定された要件を満たした介護事業所で働く介護職員の方の賃金改善を行うための加算。」とあります。どういうことか、簡単に言いかえると「介護施設や事業所において、介護職員のキャリアアップの仕組み制定や、職場環境の改善を行えば、介護職員の報酬を上げるための支援金がもらえる」制度です。介護職の仕事は体力の摩耗はもちろん、大変な仕事であるにも関わらず薄給であることが何度も問題視されてきました。また、薄給でキツいという介護職のイメージが先行してしまい、人材不足に陥っています。人生100年時代となるこれからは、介護職はますます必要になる職種であるのに、「人が続かない」人手不足の問題は深刻です。そこで介護職に就く人材確保のため、介護職を目指す人や、すでに介護職員として働いている人の定着率を上げるための対策を、介護職員処遇改善加算として国が打ち出しました。
介護職員処遇改善加算の取得の条件
介護職員処遇改善加算を取得するには一定の条件を満たしていなければなりません。申請すればどの事業所でも満額を取得可能ということではないのですね。ここでは、介護職員処遇改善加算を取得するには、どういった条件が必要とされるのかを詳しく解説していきます。
キャリアパス要件
介護職員処遇改善加算を取得するには、キャリアパス要件を満たしておく必要があります。このキャリアパス要件にはキャリアパス要件Ⅰ・Ⅱ・Ⅲがあり、満額の介護職員処遇改善加算を取得するには、それぞれ条件をクリアしていなければなりません。まず、キャリアパス要件Ⅰは、職員の適切な昇進や昇給が行われることです。介護事業所内で役職があり、それぞれに必要な能力や責任の範疇が明確にされていることが求められます。従業員の能力によって適切に役職が上がっていくことは、一般の企業において特別なことではありません。しかしながら介護職においては、キャリアの長い職員であっても、待遇が新人と変わらないことも少なくないことがしばしば問題となっています。介護職として長期に渡り働くことでどういったキャリア形成をできるのかを明確にし、就業規則等により制度化・運用することはもちろん、その道筋を明確に職員に周知することが求められます。職員からすれば、明確にキャリアが見えることが、将来への展望とモチベーションに繋がるのです。
次にキャリアパス要件Ⅱは、人材育成における要件の明確化となります。人材育成において、具体的な計画を設けてその機会を提供すること、研修の機会を確保することが必須です。また、人材育成の機会を受ける職員に対して、シフトの調整や費用の助成なども実施することが求められ、事業所はその規定を明確に記載することが求められます。そしてキャリアパス要件Ⅲは、職員の経験・資格などに応じて昇給する仕組みや、基準に基づいた定期の昇給を判定する仕組みを制定することです。要するに、仕事についてからずっと同一賃金ではなく、それぞれの能力やキャリアによって給料がアップする明確なルールが求められます。
職場環境等要件
職場環境等要件とは、介護職員が適切に就業できるように職場環境が整備されることです。賃金以外で職場環境改善に対する取り組みが実施・明確化されていることが求められます。業務の効率化は設備投資を含むため、残念ながら怠る事業所も実際にあります。職場環境が改善されないことは、介護職員の心身の負担が著しく、離職の原因になることは明らかです。介護職員のために設備投資を行うことは、適切な内容での労働を提供している証明となります。また、職場環境等要件は、2021年度により強化した内容で条件を設定されています。職員の新規採用やキャリアップ、身体への負担がない環境づくり等6つの要項を年度毎に実施が必要です。
以下が強化促進をされる6つとなります。
● 職員の新規採用や定着促進に資する取組
● 職員のキャリアアップに資する取組
● 両立支援・多様な働き方の推進に資する取組
● 腰痛を含む業務に関する心身の不調に対応する取組
● 生産性の向上につながる取組
● 仕事へのやりがい・働きがいの醸成や職場のコミュニケーションの円滑化等、職員の勤務継続に資する取組
介護職員処遇改善加算の区分
介護職員処遇改善加算を取得すると、それぞれの区分に応じた金額を月々に受け取ることがきます。介護職員処遇改善加算はⅠ~Ⅴまで制定されており、給付をどれだけ受けられるかは、キャリアパス要件をどれだけ満たしているかが判断基準です。加算区分のⅠが最も給付額が多く、順に加算区分のⅤになるほど減額します。もちろん、給付額が多いほど、満たすべき要件も増加します。また、Ⅰ~Ⅴの区分は、2022年度より一部廃止が決定しています。それぞれの区分について解説をしていますので確認してください。
処遇改善加算Ⅰ
処遇改善加算Ⅰは「職員1人当たりの平均経験年数に応じた加算率の基礎分と賃金改善要件分(キャリアパス要件分を含む)の値を合計した値により認定」とされています。処遇改善加算Ⅰは、キャリアパス要件のⅠ~Ⅲ全ての条件を満たし、なおかつ職場環境等要件も満たしている事業所が給付対象です。全ての条件を満たすと判断されると、月々に職員1人当たり37000円の補助が出ます。
処遇改善加算Ⅱ
処遇改善加算Ⅱは、キャリアパス要件のⅠとⅡを満たし、なおかつ職場環境等要件を満たしている場合に補助が出ます。職員1人当たりに月額で27000円の補助です。
処遇改善加算Ⅲ
処遇改善加算Ⅲは、キャリアパス要件のⅠ、あるいはⅡのどちらか一方を満たしており、職場環境等要件を満たしている場合に補助が出ます。職員の昇給が行われているか、あるいは人材の育成を行えているか、どちらかが満たされていると判断された場合、処遇改善加算Ⅲが適応となり、月額で職員1人あたり15000円の補助となります。
処遇改善加算Ⅳ
処遇改善加算Ⅳは、2022年度より廃止が決定されています。処遇改善加算Ⅳは、キャリアパス要件のⅠあるいはⅡあるいは職場環境等要件のいずれかを満たしていれば加算対象となり、職員1人あたりにおいて月額で13500円の補助を受けることができます。2022年度より廃止ですが、2021年3月末までに加算区分を算出している事業者に対しては、1年間の経過措置が適応されます。該当する事業者は注意してください。
処遇改善加算Ⅴ
処遇改善加算Ⅴも、Ⅳと同じく廃止が決定しています。処遇改善加算Ⅴは、キャリアパス要件のいずれも満たさず、また職場環境等要件も満たしていない場合に適応されます。処遇改善加算Ⅴは、月額で職員1人あたり12000円の補助ですので、条件を満たしていなくとも補助対象としては大きな金額です。今後は、いずれかの介護職員処遇改善加算の補助を受けるには、職員の労働環境を整え、昇給及びキャリアアップに対する取り組みが必須と言えるでしょう。
介護職員処遇改善加算の対象者
職員として介護職に就く人は、この介護職員処遇改善加算の対象者に自分も含まれるのかが気になるところでしょう。基本的には、対象者となるのは「実際に介護の業務に当たる職員」となっています。そのため、介護の事業所で働いていても専門の事務職員としての勤務であった場合は対象外となります。しかしながら、事務職員でも介護職を兼務していれば対象です。対象となる場合を詳しく解説していきますので、ご自身が対象かどうか判断してみてください。
パート介護職員
厚生労働省のガイドラインには、介護職員処遇改善加算の対象者に雇用形態の明記はありません。そのため、パートやアルバイトの勤務であっても、介護職員処遇改善加算の対象者になります。ただし、介護職に従事する人のみが対象な点に留意しましょう。居宅介護支援や地域包括支援センター、訪問看護やリハビリテーション、調理部門での採用はそもそもが対象外ですので注意が必要です。また、扶養の範囲内で働いている方も介護職では多いことでしょう。この場合、扶養範囲内だから対象外と考えられがちですが、実際には対象です。ただし、加算によって年間の扶養範囲を超す場合があるので、シフトの調整などは事業所との相談が必要となってきます。
派遣介護職員
厚生労働省のガイドラインによると、派遣での就業で介護職に従事する場合でも介護職員処遇改善加算の対象となります。ただし、派遣元と相談の上、となるので独自では判断ができない点に注意しましょう。因みに、派遣で介護職として働く場合、より多くの給与を得るのであれば断然夜勤が良いと言われています。夜勤で働くと「深夜割増賃金」の制度が適用されるため、高時給です。対象は22時~5時の間で、通常の時給に1.25倍ですので、月額にすると大幅な増幅が見込めます。
介護職員処遇改善加算の計算方法
介護職員処遇改善加算の計算方法をお伝えしていきます。介護職員処遇改善加算の計算は、「1カ月あたりの総単位数の算出→介護報酬総単位数の算出→単位数を金額に換算→利用者負担額・国保連請求額の算出」で求めることが可能です。それぞれ順を追って説明していきます。
1カ月あたりの総単位数の算出
まずは「1カ月あたりの総単位数の算出」ですが、これは基本サービス費に各種加算減算を足したものに利用日数をかけて算出します。この「基本サービス費」とは、提供するサービスごとの介護報酬から、各加算や減算、加算率を無視した値を意味します。介護費用にとっての基本料金と考えてください。「各種加算減算」とは、基本料以外のサービスにおける費用単位です。サービスを提供する時間帯や、事業所の人員などの条件により、さまざまな加算・減算があります。
介護報酬総単位数の算出
介護報酬総単位数は、基本サービス費にそれぞれの加算減算を加えた総単位数です。算定を受ける年度において見込みでの算出をします。見込みでの算出は、イメージや理想を元にではなく、過去の実績に基づくデータで行ってください。算出した総単位数にサービス別加算率を乗法します。
以下の算出方法を参考にしてください。
〇1カ月あたりの総単位数の算出×サービス別加算率=処遇改善加算の総単位数
〇1カ月あたりの総単位数の算出+処遇改善加算の総単位数=介護報酬総単位数
単位数から金額への換算
算出した介護報酬総単位数を、金額に換算します。これは、事業所がある地域によって区分に差があるため、事業所が位置している地域区分率を採用してください。地域区分とは、簡単に言えば都心であれば人件費が高いため、1単位あたりの単価も高くなるというものです。1級地から8級地まであり、1級地は東京都特別区のみです。算出方法は以下の計算式に当てはめてください。
〇処遇改善加算の総単位数×地域区分=処遇改善加算総額
〇介護報酬総単位数×地域区分=介護報酬総額
介護職員処遇改善加算でいくらもらえるのか
前述の通り、介護職員処遇改善加算は全ての条件を満たすと、職員1人当たりに対して月額37000円が補助されます。介護職員処遇改善加算Ⅱは月額27000円、加算Ⅲは月額15000円です。実際に、処遇改善手当がどのように支給されるのかは気になる部分でしょう。方法としては、給与に反映する方法、賞与として支給される方法、手当として支給される方法がそれぞれ考えられます。そもそも、介護職員処遇改善加算の本来の目的は、介護職での大きな課題である薄給に対するものなのですが、介護職員処遇改善加算が本来の狙い通り「賃金水準の引き上げ」として使用されるのは全体の2割にも満たないと言われています。処遇改善手当が満額で支給されるかどうか、金額や支給方法は事業所によって異なりますので、事業所へ確認してください。
介護職員処遇改善加算は双方にとって安心の制度
「人生100年」でこれから先はもっと高齢化社会となり、介護を必要とする人は増加することが指摘されて長い時間が経っています。加えて、少子化により、深刻な人手不足であることも長年問題視されてきました。介護職にはすでに「給料が安い」「体力がきつい」「精神的に辛い」といったイメージが先行しています。十分な人員を確保するには、事業所として働きやすい環境を提供することが大切であり、安定した介護職員の確保にもつながるのです。介護職員処遇改善加算を取得できるよう、事業所責任者は介護職員の将来性を十分に加味して、条件を満たせる環境の改善を図りましょう。
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